――  ほかにもあるいろいろな薬物 ―― 

Mr. Kunio Tojima


1)大麻
 ヤーバー以外にもタイで乱用される薬物はいろいろある。大麻もそのひとつだ。乾燥させた葉だったり樹脂だったりと状態によって呼称が変わるが、マリファナ、ガンジャ、ハッシッシュ(ハシシ)などいずれも大麻のことだ。

 大麻は臭いを発するのですぐに分かる。室内での吸引はドアや窓から臭いが漏れるので、濡れたタオルなどをドアの隙間に挟み込んで、空気の流れを止める。しかし体に臭いが染み付くので、常習者は不快になるほどのオーデコロンなどの香水を髪や衣服に付けてごまかそうとする。結果的に、そのような不快な臭い消しで大麻常習を知られてしまうことになる。

 大麻を吸うと、陽気になってよく喋る。芸能人に常習者が多いのは、周囲の人間が「話が楽しい」と評価してくれる、という期待によるものだ。警察がマークするほどにテレビでの話が楽しくなった者はたいてい、大麻に手を出している。常習すると五感が過敏になって思考的に混乱、強迫観念に襲われたり、その反動で攻撃的になったりする。肉体的にも障害が発生、女性だと不妊や流産を引き起こすという。

2)LSD
 合成大麻で、錠剤、カプセル、ゼラチンなど複数の形状がある。わずかな量でも幻覚、幻聴が激しく、効果は8~12時間も持続する。

 日本ではオウム真理教での使用が有名だ。警察が捜査の過程で、何人もの信者が部屋の中で腕をパタパタさせている光景にでくわしたことがあった。LSDによる、鳥や蝶になって空を飛んでいる幻覚だったという。乱用の成れの果ては精神分裂などだ。

3)アヘン
 タイ北部の山奥に行くと、現在でもアヘンを良く見かける。横たわって長い吸引器で吸う。芥子(ケシ)からアヘンを採取、アヘンからモルヒネを抽出、モルヒネを生成するとヘロインになる。

 アヘンの効用は「陶酔感」だといわれる。その快感が癖になって吸引を繰り返すのだが、2~3時間で効力が消えて筋肉が痛み出すので、それを和らげるためにも繰り返しの吸引が必要なのだという。寝ながら吸っているのもそのためだ。

 タイ北部からミャンマー、ラオスにかけての山岳地帯ではその昔、麻薬王のクンサーが君臨してゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)を造り上げた。タイ国内では芥子の赤い花が咲く時期になると、国軍がヘリコプターで一帯を捜索する。これまでの徹底的な取り締まりで芥子畑は一掃されたが、国境の向こう側にはまだ残っているようだ。

 アヘン吸引はもちろん違法だが、前述のようにタイ北部の山奥では当地の少数民族を中心に、モルヒネの元であることから「医者いらず」と呼ばれ、昔ながらの吸引が続いている。乱用ではないことから、タイの治安当局もある程度は黙認しているようだ。 

4)コカイン
 南米原産のコカの葉が原料で、U字の器具を使った鼻による吸引が良く知られているが、粘膜に擦り込めば鼻以外でも効力があるという。

コカインを吸うと気分が高揚し、疲労を感じない。吸い続けるとやがて精神が障害をきたす。皮ふの中をアリやウジみたいな虫が這い回っている幻覚に囚われ、ひたすらかきむしることになるという。

5)合成ドラッグやシンナー
 合成ドラッグは化学薬品の合成からなる薬物で、たいていは疲労感を払拭して開放感を得ることができる。タイや日本に限らず、世界各国で急速な乱用が問題となっている。

これまで薬物に関しての話が続いたが、実は薬物以上に危険なのが、昔ながらの「シンナー乱用」、いわゆる「あんぱん」だ。酒に酔ったような気分を味わえる。

 日本では現在、シンナーを気軽に購入できなくなっているが、タイではまだまだ普通に売られている。乱用を続けると無気力になり、幻覚や妄想などの精神異常をきたす。シンナーが恐ろしいのはそれだけにとどまらず、呼吸器系を中心に内蔵を破壊し、脳さえも萎縮させることだ。そして乱用を止めても回復することはない。

シンナー中毒者を解剖すると、肝臓がメロンパンのように固まっているのを見ることができる。また火葬では骨までボロボロに燃え尽きてしまう。

 タイでは薬物の誘惑が絶えない。薬物に関わらないでいること、それはそれぞれの意志の強さにある。一方、一度でも手を出してしまうと常習化し、最後はどれほどの意志を持ち合わせていても止められなくなる。意志ではなく、体が薬を要求する。

 警察は薬物関連の犯罪者のデータを決して抹消することはない。再犯に備え、日本の警察の場合は70歳まで保管している。

戸島 国雄
元警視庁刑事部鑑識捜査官 元似顔絵捜査官 タイ警察・警察大佐