20190618-004

 私は小さいころからよく幽霊を見る。その中で一番恐怖を感じた体験は、BTSプロムポン駅近くのマンションに住んでいたときの話。私は当時、日ごろからその部屋で霊を視界の端で見たり、霊の気配を感じたりしていたが、はっきりと見えるわけでもないので気にすることなく過ごしていた。

 しかしある日、幽霊をはっきりと見てしまったことがきっかけで、私は耳元で鼻息や呟く声が聞こえるようになった。金縛りの回数も増えた(その霊は今回話する霊とは別物なのでまた次の機会に)。

 ある夜、私は父の部屋で父と一緒に寝ていた。いつものように金縛りに遭い、足元に気配を感じて視線を移すと2メートル先に女の人の下半身が私の方を向いて立っていた。そのときはトイレの電気を点けて寝ていたから、はっきりと見えた。

 緑のタイダンスの衣装を着ていた。
(やばい!)
 と思って急いで金縛りを解いた。金縛りを解けば幽霊も消えてくれるかなと思ったが、女の下半身はまだそこにいた。怖くなって横を向き、布団をかぶった。そうしたら布団越しだが、耳の元で呟き声が聞こえた。風のような重さのない声だった。最初は声が小さく内容を聞き取れなかったが、声に怒りや憎しみを感じた。横で寝ている父を起こそうとしたが、いびきをかくだけで全く起きてくれないので諦めた。

 そのうち声がだんだん大きくなって、内容が聞き取れるようになった。
「聞こえているのは分かっている」
「お前を殺してやる」
とか、怒りのこもった声で脅してきた。

 怖くてじっと聞き流していると声が止んだ。もう消えてくれたのかと思い、確認するために布団から顔を出すとそれは私の真上にいた。タイの踊り子の格好をした女の上半身。緑のタイダンスの衣装を着て頭の上には“チャダー“というかぶりものまできちんとかぶっていた。

 肌は腐りかけの死体のような緑っぽい色でギョッと見開いた目は赤く充血。憎しみに満ちた目でこちらを覗き込んでいた。しかもなぜか下半身はまだ足元に立っている。すぐに布団をかぶり直した。女がまた私を脅し始めた。今度は叫びながら
「お前の命をくれ」
「呪い殺してやる」
とか。徐々に私が理解できない昔の言葉で叫びはじめて、最終的に聞き取れるのは「お前」と「命」だけになった。私は死ぬのかなとか考えながらじっとこらえていると、いつの間に朝になっていた。

 その幽霊に殺すと脅されたけど、2週間先に引っ越しを控えていたので気にしないことにした。お寺にもお祓いにも行っていないが、別に病気するわけでも事故に遭うこともなく、今も元気に過ごしている。あの脅しは何だっただろう。