20190625-001

♀ 20代後半 ピサヌローク出身バンコク在住

 ピサヌロークのあるビルで体験した話。そのビルは5階建てで、ビルの左側の1階に私が働いていたカラオケ店があった。ビルの右側の1階はレスキュー隊の事務所、2階はアパートになっている。3、4、5階は、というと、長い間放置されて窓やドア壊れていたり外れていたりで、廃墟と化していた。

 カラオケ店の仕事は深夜に終わる。仕事仲間の何人かはビルの2階のアパートの住んでいたので、よく泊めてもらっていた。その夜も仕事仲間の部屋にお邪魔した。私が寝ようとすると、アパートの別の部屋にいる職場の先輩から電話がかかってきた。何ごとかと思い、電話に出てみると慌てた声で
「A(♀)の様子がおかしいの!早く来てくれ!」
と言われた。Aとは仕事仲間の一人で、5日前くらいから先輩の部屋に泊まっている。急いで先輩の部屋に向かうと、そこには震えながら横たわっているAの姿があった。Aは
「なんで来るの? 私、なにかした?」
と目を閉じたまま涙を流しながら喚いていた。ちなみにこの日はお客さんがいなかったから、Aを含めて誰もお酒を飲んでいない。

 心配になって声をかけてみると、Aは自分の寝ているつま先の方向に指を差し、
「女の人が立っている」
と言った。もちろんそこには誰もいない。私がなぜそこに女の人が立っているのか聞くと、Aは
「私が騒がしくてマナーがないから嫌だって言ってるの」
と言った。その後もAは
「怖い」
「ごめんなさい」
を繰り返すだったので、私の手首に巻かれているサーイシン(お守りのよう役割を持つ仏教の手首に巻く糸)を外し、Aに持たせようとした。そうすとAは
「女の人が熱がってる、可哀想」
と言ってサーイシンを投げ捨てた。もうどうすることもできないので、私はお経を唱えることにした。お経を唱え終えると、A青ざめた顔で
「もう行った」
と言って、起き上がることができた。

 すでに朝方になっていたので、私はAやほかの先輩たちにお寺に行かないかと提案した。Aを含め、みんなが同意したのでバイクに乗ってお寺に向かった。Aは私の後ろに乗っていた。お寺に着くとAは本堂に入るのを躊躇(ちゅうちょ)した。私はAの様子に違和感を覚えた。普段のAは明るくよく喋る人だった。なのに今はうつむいたままで、何も話そうとしない。しかも、お寺までの道、私はサイドミラーから彼女の様子うかがっていたが、風が強く顔に当たるバイクに乗っていたのにもかがわらず、彼女は一度もまばたきをしなかった。

 何とかAを本堂のなかに入れることができ、私たちはAを座らせお参りをさせた。それから私は、隅に置いてある聖水をAに渡した。しかし、Aはすごく嫌がった。聖水は邪悪なものを清めることができるので、無理矢理にでもAに飲ませようとしたら、Aは
「飲まない! ここ(例のビルの部屋)にいたければ、聖水なんで私に飲ませるな!!」
と怒り出した。みんなびっくりしてその場は静まり返った。私は冷静を装おって
「はいはい、分かったよ」
と言いながら聖水を戻した。聖水を戻した際にこっそり親指の先に聖水をつけた。Aの元に近づき、顔のかかった髪の毛を払いのけるふりをして聖水をつけた。すると、Aは突然バタンと倒れて気絶した。

 しばらくしてからAは、意識を取り戻した。Aはびっくりした顔をし、自分がなぜお寺にいるのか分からなかったようだった。Aによると女の人が部屋を出て行った後、彼女は眠りにつき目を覚ましたらここにいたとのこと。どうやら女の人が部屋を出て行った後の記憶がないらしい。

 その直後、私は元気を取り戻したAに詳しく話を聞いた。彼女は先輩の部屋に泊まりにきた初日からその女を見たらしい。キャミソールに半ズボンを着たすごく綺麗な女。隣の部屋の前に立っていた。隣人だと思い、Aは気にすることはなかった。しかし、次の日になってもその次の日になっても、その女はまだ同じ服を着て同じ場所に立っていた。Aは怖くなったが誰も言えず、今に至ったらしい。

 女の正体が気になった私と先輩は、ビルの右側にあるレスキュー隊に話を聞きに行った。レスキュー隊のお兄さんにこの辺りで亡くなった綺麗な女性を知らないかと聞くと、レスキュー隊のお兄さんは
「いるよ。会ったのか?」
と返してきた。
「友達が見たよ」
というと、
「ああ。キャミソールに半ズボンを着たハーフ系美人の人だろ」
とまだ聞いてもいないのに女の服装や外見を説明した。全部当たっている。彼の話によると、その女性はこのビルの元大家さんで、ビルの屋上で首吊り自殺もしたとのこと。その女性は死ぬまで、Aが寝泊まりしていた部屋に住んでたらしい。私達はお供え物をもってに屋上に行って彼女に謝りにいった方がいいと言われた。

 私はAを含め、あの夜あの部屋にいたみんなに声をかけて、屋上に行くことにした。そこには彼女の霊を鎮めるために立てられた供養塔と隅っこに大きな貯水タンク。彼女は貯水タンクに縄を縛り付けてそこで自殺したらしい。首吊りの縄が残ったままの貯水タンクは、ただならぬ雰囲気をかもだしていた。

 その後、その女性に取り憑かれたAと先輩はすぐに仕事を辞めた。その後も、お店で問題が起きたり働いている同士が揉めたりで、私を含めてお店を辞めていく人が1人2人と増えていった。最終的にそのお店も潰れてしまった。

 Aは本当にあの女性を見たのか、社員がどんどん辞めていきお店が潰れたのが彼女の呪いなのかどうかは分からないが、今でも
「飲まない! ここにいたければ、聖水なんで私に飲ませるな!!」
の言葉は思えている。