20190708-001
♂ 20代 バンコク出身バンコク在住

 ある日、お母さんがタラートロットファイ・シーナカリンから中古の美しいキャビネットを買ってきた。どうやら日本から入ってきたものらしく、タイでは見たことのない作りになっていた。暗い茶色、観音開き内部は金色に輝いていた。お母さんはその美しいキャビネットをホン・プラ(仏像を安置する部屋)に置いた。

 その夜から僕は、金縛りや悪夢に悩まされるようになった。悪夢では女が激しく悲鳴を上げる声が聞こえたり、黒くて長い髪の女の後ろ姿を見たりした。金縛りに遭っているときに霊を見ることはないが、キーンと耳が痛くなるような耳鳴りや、何かが体の上に乗っていて苦しくなようなことが多かった。ほかにも、誰がいないはずの2階から誰かが歩き回るような音が聞こえたり、誰も使ってないはずのシャワー室の床が濡れていたりと、怪奇現象がたびたび起こっていた。

 そんなことが毎日のように続いて、僕はちゃんと睡眠を取ることもできずノイローゼ気味になっていた。当時は、遺産のことで揉めていた親戚に呪いをかけられたんじゃないかと思ったり、おじちゃんにもらった年代のある車に憑(つ)いた幽霊の仕業かと思ったりもした。

 しかしそんな不思議なことが起こりはじめてから1年くらい経ったころ、お母さんが知り合いに紹介してもらった霊能者に来てもらうことになった。霊能者は仏像部屋でお祓(はら)いの儀式をはじめた。儀式が終わった直後、霊能者は
「歳をとった女の霊の仕業だ。その棚についてる」
といいながら、お母さんが買ってきた美しいキャビネットの方を指さした。その瞬間、締めていたキャビネットの扉が
「パン!」
と開いた。
「そのキャビネットをお寺に持っていき、供養をしてあげるといい。そうするとその霊は成仏できる」
と霊能者にすすめられたので、キャビネットをお寺に。

 以降、僕は金縛りや悪夢から解放され、ちゃんと眠れるようになった。この怖い話をこのサイトの編集者に話したところ、あのキャビネットは先祖供養に使われる仏壇であることが分かった。タイには先祖を供養する仏壇がない。美しさに引かれて、運悪く誰かの先祖がついてる仏壇を買ってしまったようだ。これからは中古品を買う際は気を付けようと思っている。